アスタリスクの雪景色
白いインク、透明なるものへの愛憎
僕にグラフィックデザインの楽しさを教えてくれたのは間違いなく、小学生のころ自宅にあった「プリントゴッコ」と、大学時代に無理をして買った、当時のアルプス電気のプリンタ「Micro Dry」シリーズだ。2つに共通するのは、金・銀・蛍光色や白色といった特色インクが使えること。小学校の友達に送る年賀状は金銀でピカピカだったし、大学ではデザイン科でもなんでもないのに、課題として透明フィルムに白印刷を施した出力物を提出したりしていた。楽しくて仕方がなかった。
グラフィックデザインの仕事を始めたとき、晴れて堂々と「白いインク」の印刷物を作れるかといったら、実はそうでもなかった。透明のフィルムに白い文字が刷られた佇まいは、問答無用の美しさがある。ただ、同時にこの綺麗さはどこか人間の動物的な反応を利用したハック行為のようにも思えてきて、素直に使えなくなってしまった。「キラキラしたものや透明なものを綺麗と思うのは当たり前じゃないか、もっと形やレイアウトの妙でハッとさせるものを作りたい」などという気持ちがふくらんできたからだ。ある種の「こじらせ」の一種である。
ところが最近、家の整理をしていたら、学生のころに作った例の課題作品が出てきた。OHPシートに白インクをふんだんに使い、これでもかといわんばかりの読みづらいレイアウト。なんだか恥ずかしくなるのと同時に、その素直さがなんとも好ましい。見ているうちに、久々に「白いインク」を使ったものを作りたい気持ちが湧いてきてしまった。
意味とかたちの間
もともと申し込んでいた冬のコミックマーケットは、大晦日とその前日だ。真冬に出すのなら、雪のイメージを作ってみようか。……そういえば、アスタリスク記号は六芒星のようなかたちで、どこか雪を思わせる。これを使ってはどうだろう?
アスタリスクについて調べてみた。すると、Unicodeにはなんとアスタリスクと類似記号だけで10種以上も収録されていることがわかった。気になる形のものを選び、ずらりと並べてみると、まるで雪の標本のようだ。見つめているうち、自然とタイトルが浮かんできた。文字の標本——アスタリスクの雪景色。
たくさんのアスタリスクを白で刷り、ばらばらと散らしてみると、徐々にその意味は失われてただの「かたち」にしか見えなくなる。なんとも自由な美しさ。そうだ、これらの雪を鑑賞するためには「背景」が必要だ。見慣れた風景の見え方が一変する新鮮さこそ、雪景色の醍醐味といえる。あのプリントゴッコの楽しさを思い出しながら、黒と「鉛筆のような光沢感」を意識した、銀色を基調にしたシンプルなイラスト集をつけることにした。
こうして白いインクと透明なるものへの愛憎を込めた、あたらしい本ができ上がった。絵の上にアスタリスクを散らして眺めるための、書体見本でありイラスト集でもある何か。それぞれの“雪”のテクスチャが持つ味わいを感じ取ってもらえたら、とても嬉しいです。
タイトル | アスタリスクの雪景色 |
仕様 | 透明フィルム8p(白刷り)+ A5 8p(2色刷) + 専用封筒 |
頒価 | ¥1,500(予定) |
著者 | robamoto |
発行日 | 2022年12月31日 |
入手方法 |
|